このページは、 お使いのPC画面を32ビット(1600万色)表示モードにしている場合に、 ページ中の画像が正しく表示されます。 それ以外のモードでは、画像については正しく表示されない場合がありますので、 予めご承知おきください。 スキャンした電子文書の見読性について紙面を改変する様子と、それをスキャンした画像を使って、 改変の有無を確認するのに必要な技術要件についてを説明する。
●文字情報の判読の可否改変の様子を紹介する前に、 スキャンした画像からもとの情報を判読可能かについての例を示す。
紙面に「¥123,456−」と手書きしたものを、
e文書法検討報告書が例示している技術要件でスキャンした画像を以下に示す。
手書きした文字の大きさが比較的大きいということもあるが、
以下の例のように、文字を読むだけであれば、
報告書が例示している要件よりも低い解像度でも判読可能であることがわかる。
これだけを見ると、文字の大きさが1cmくらいで記載された紙面であれば、
モノクロ2値の50dpiでも十分なように思うかもしれない。
仮に5mmの文字でも、100dpiでよいことになる。 ●改ざん痕の有無の判定実は、記載されている文字情報の判読の他にスキャン時の技術要件を決める際に検討すべき観点がある。それは、紙面に改変がないかを判定するという場合である。
ここでは、
「¥123,456−」を
「¥428,496−」に改変する事例を実際の画像を用いて紹介する。
上図の改変では、以下のような3つの文字の改変をしてある。
改変を視認しやすくするために、薄黄色の用紙を使って、 改変前のペンの色(黒)と、書き加えのペンの色(濃紺)を変えてある。
このような改変の有無を、
スキャンした画像から判定できるかについて確認するために、
改変した紙面のスキャン要件を様々に変更した様子を以下に示す。
上の例を見ると、判読のときには重要ではない階調が、
改ざん痕の有無の判定には重要であることがわかる。
上図のカラー画像の例では、解像度が低くても、
数字の9の修正液の痕だけではなく、
数字の1が4に改変されている部分でわずかに色の違いも見て取ることができる。
●画像保存時のファイル形式
これまでは、紙面をスキャンする際の色数(階調)と解像度について説明した。
一概には分類できないものであるが、一般的な初期設定での目安を示した。 たとえば、デジタルカメラなどで、200万画素の画像を保管する場合、 もとの画像のデータ量は、 ・200万画素xカラー(赤青緑、各256階調=3バイト)=約6Mバイト であるが、デジタルカメラの一般的な保存形式である JPEG ファイル形式では、 ・200〜300KB であることからも、非可逆圧縮を有効に使う方がファイル容量の節約になることは間違いない。
ちなみに、A4用紙1枚を150dpiでスキャンした場合の画素数は、
以下の例では、スキャン時の色数(階調)と解像度の同じ画像を、
保存時に JPEG による非可逆圧縮した場合の、
圧縮レベルの設定を変えた場合の画質の変化を示す。
上図で改変の有無の判定に必要な要件を知るには、
しかし、文字情報の判読に必要な要件だけであれば、レベル1でも問題ないということになる。
●「文字情報の判読」と「改変の有無の判定」に必要な要件は異なる以上の例から、 記載された文字情報の判読に必要な技術要件と、 改変の有無を判定するのに必要な技術要件が異なることがわかる。後者は前者よりも非常に厳しい要件が求められる。 前者についてであれば、 紙面に記載される文字の大きさなどが定まっていれば、 十分条件を定めることは不可能ではない。 しかし、後者の改変の有無の判定についての十分条件を定めることは簡単ではない。
ここで紹介した事例だけを見ると、上の例で使用したソフトでファイルを保存する場合には、
仮に、同色のペン色を使い同色の修正液を使った場合を想像してみるとよい。 その場合の改変の有無を判定するには、非常に厳しい要件となることがわかる。
改変の有無を判定する者が、
どの程度の技術要件でスキャンすれば十分と思うのかを推定することが簡単ではないことがわかったはずだ。
●報告書がふれていない問題:デジタル加工最後に参考までに、報告書がふれていない問題についても紹介しておく。
以下の例は、紙面を改変するのではなく、
もとの紙面をスキャンした画像ファイルをソフトウェアで加工した例である。
この場合では、紙面としての改ざん痕そのものが存在しない上に、
「1」と「6」両方ともがもとの筆跡であり特徴の偽りもない。
これをデジタル画像だけで改変について判定することは不可能に近い。
このことは、紙面をスキャンした画像による電子文書について、
改ざんがないことを当該の文書だけで証明することの難しさを示唆している。 紙面について振り返ってみれば、公証人役場が用いる方法では、 硯(すずり)で墨をすり毛筆で和紙にしたためる。 この方法では、墨の成分と濃さは毎回異なり、 それが和紙の繊維に絡み付いて定着する。 いざとなれば顕微鏡を使って改ざん痕を判定することもできる。 これに相当することを電子文書単独で実現することがいかに大変なことかわかる。
結局、いくら高い技術要件でスキャンしたとしても、
完全な保証が得られないのであれば、
それについてはどこかで割り切って、
当該文書だけに頼らない方法についてを見極める必要があるのではないだろうか。
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